過去に矯正治療を受けた人の話を聞いて,矯正治療は痛いものと先入観をもって心配なさっている方がよくいらっしゃいます.しかし近年では,高度先進医療にも指定されている,痛くない範囲内の力をコンスタントに発揮し続ける体温感応型の形状記憶合金が開発されています.
また歯の動きを妨げることなく痛みだけを止めるペントイルなどの鎮痛剤も開発されました.その結果昔に較べると痛くなく矯正歯科治療を受けることが可能になってきております.毎回の来院時のワイヤーの調整後には,全く痛みを感じない人がいますし,また2~3日は多少の痛みを感じるかたもいらっしゃいます.
歯の移動は,歯の根の周りを取り巻く歯槽骨とよばれる骨の改造現象によって起こります.下の図のれんがの柱に相当するのが歯槽骨.柱を壊している人は破骨細胞さん.積み上げているのは骨芽細胞さんです.こわすのにだいたい2〜3日,積み上げるのに約1ヶ月かかります.
形状記憶ワイヤーをもちいた場合には,なんと3ヶ月以上にもわたって,歯の痛みをなるべく起こさない範囲内の弱い力で,コンスタントに歯槽骨の改造現象をおこしてゆくことができます.
当院では大人の患者さんすべてに装置装着時に痛み止めペントイルをお渡ししております.
また,ワイヤー調整後にはOPAとよばれるNASAで開発されたバイトウエハースを噛んでいただくことにより,すべての歯の血管圧の均一化をはかり,痛みが部分的に集中するのを防ぎます.
歯の痛みはあなたが心から望んでいた素晴らしい笑顔へ向かって,歯の移動がおこっている証拠です.
なお痛みを感じるのはほとんどの場合最初の2回までの調整後で,それも長くて2〜3日程でおさまります.また痛みには個人差があります.
生理学の用語で閾値という言葉があります.これは読んで字のごとく痛覚が飛び越えるしきいのことです.鎮痛剤はこの閾値を高くすることによって,痛みが容易に飛び越えてゆけなくするためのものです.痛がりの人はせっかく痛みが飛び越えられないでいるこの敷居を,心配することで,精神的にかえって低くしてしまい,他の人に較べて余計に痛みに悩まされているのです.
ディブレース(装置撤去)後には,すべての人が口をそろえたように,自分の口じゃないみたいといいます.そのくらい慣れてしまうものですから心配はいりません.安心して治療を受けてください.
リンガルアプライアンスで治療する場合,下顎前突や開咬などで,舌の大きな人では,特に下の歯につける装置が舌にあたってしゃべりにくいことがあります.こういった理由からも,リンガルラビアル(上のみリンガルアプライアンス,下は通常のセラミックアプライアンス)で治療される方もいらっしゃいます.
矯正治療中には,柔らかく栄養のある食事を,ゆっくりとよく噛んで,歯がきれいに並んでしっかりと噛める日が来るのを楽しみに,私たちと一緒に頑張ってゆきましょう.