矯正歯科における抜歯治療と非抜歯治療についての中立の立場からのさらに詳しい説明はこちらから・・・
叢生の弊害
歯が重なってはえていると,隣りあう歯どうしが広い面積で接触することとなります.そのため歯ブラシがゆき届かず充分に清掃することが不可能な不潔域がおおきくなるため,必ずといっていいほどムシ歯や歯周病に罹患してしまいます.
平成9年の厚生科学研究から,歯を早い時期に失うと老化を速め,噛めないことにより将来痴呆や寝たきりになる危険性が増すことがわかりました.ショックなことに歯が1本もないひとと全部の歯がそろっている方との比較では,ぼけ率3倍・寝たきり率10倍という結果が出ました.また最近の研究から歯周病をもつ人が心疾患や脳梗塞で死亡する確率が,歯周病のない人に較べ非常に高いことが分かりました.その原因はアテロームとよばれる動脈の内壁にできるお粥のようなかたまり(粥腫)のなかから,歯周病の原因菌が検出されたことからあきらかになりました.歯科衛生士は,2mmづつ交互に白黒になったプローヴを使って,各歯を表裏3点づつ計6点のポケットデプスを診査しますが,辺縁歯肉に炎症がある方では平均2mm以上であることが多いです.たかだか2mmと思ってもすべての歯を輪状に取り巻いているため合計すると片側頬ほぼ全体に相当します.これが赤剥け状態で,普段は無菌的なはずの体内に歯周病菌の出入りを可能としてしまいます.弊害は心筋梗塞・脳梗塞に留まらず,誤えん性肺炎・口臭・発熱・肥満・糖尿病から早産・健康破綻までおよびます.
以前から歯ブラシが行き届き清掃しやすいきれいな歯並びの人には歯周病の罹患率が低いことがわかっていますから,矯正治療を受けることは寿命にまで影響するとも言えるでしょう.
叢生の診断・抜歯基準
矯正歯科医はいったいどういった基準で,抜歯・非抜歯の診断をたてているのでしょうか? 解答は,歯型(模型分析)と横顔全体の
レントゲン(セファロ分析)からです.ちょっと難しいですが興味のある方は読み進みください.前者からALD(Arch Length Discrepancy)をもとめ,後者で Head Plate Correction してゆきます.具体的に述べると,下顎左右の第一大臼歯近心のコンタクト間の歯列弓上における長さをAAL(Available Arch Length=排列可能なアーチの長さ)とします.左右の1=中切歯から5=第二小臼歯までの歯間幅径の合計をRAL(Required Arch Length=すべての歯を排列するのに必要なアーチの長さ)として,RAL-AAL=Arch Length Discrepancy(アーチ・レングス・ディスクレパンシー)を算出します.さらにHead Plate Correction(セファロ上の修正値)・・・を以下から割り出します.すなわちTweedの三角として知られる,矯正歯科治療の最終目的である咀嚼機能の回復・生涯にわたる歯列の安定性・口腔周囲筋の自然なバランスからなる顔の審美性の獲得を達成するための下顎中切歯の位置づけ,下顎下縁平面と下顎中切歯のなす角(IMPA)を90°にすることを目標として,2.5°を1mmに換算して上述のALDに加算してtotal discrepancyとします.下顎下縁平面の傾きが急であったり緩やかであったりすることで影響を受けるため,L1-NB(下顎中切歯切縁からN=前頭鼻骨間縫合とB=下顎歯槽基底部最前方点を結んだ線までの垂直距離)=4mmにて補正します.
八重歯があると,唇の形が不自然にゆがんでしまいます.
矯正治療することにより突出した前歯が適正な位置になり,
くちもともきりりと引き締まり,自然な笑顔がそなわります.